《短編》ガラクタ。
じゃあ、勝手に死ねよ、と正直思ってしまうんだけど。


それでもあたしの所為だなんて後味が悪いにもほどがあるし、こんな状態のシゲちゃんに言えば、本当に死んでしまいそうだから。



「ごめん。」


けど、アンタじゃホントに無理なんだ。


呟いた瞬間、景色はまるでスローモーションで、気付けばあたしの視界は天井が占め、背中にはひどく冷たいフローリングを感じてしまう。


押し倒されたのかと思った瞬間には唇に何かが触れ、おまけにしょっぱくて驚いた。



「…ちょっ…」


涙の味のキスは本気でドン引きだし、抵抗しようとして暴れるからか、あたしを掴む手の力は強くなる一方で、痛みに思わず眉を寄せてしまう。


セックス大好きのあたしだから、きっとレイプされたって感じるんだろうとは思ってたけど、でも実際は、それ以上体が動かない。


抵抗を諦めてみれば、彼は自分を受け入れることを了承したとでも思ったのか、また唇には涙の味が触れた。


キレたあたしはセックスすれば元通り、なんて思っているのかもしれない。


アラタじゃない唇の形にひどく違和感を覚え、その瞬間にあたしは、渾身の力で“やめろよ!”と吐き出した。



「…マイ?」


「ふざけんなよ!
あたしはアンタなんか嫌なんだよ!」


「…何で、そんな…」


彼は驚いたように見開いていた瞳を落とし、気付けばただ、あたしは涙を流していた。


唇を噛み締めて握っていた鍵をシゲちゃんに投げつけ、逃げるように部屋を後にする。


すぐに外を濡らす雨があたしの涙を隠すように全てを流し、肩で息をしながら呼吸を整えた。


まるであたしからセックスを取ったら何も残らないと言われているようで、不意にアラタの顔が頭の中に浮かんで消える。


そのままどうすることも出来ずに雨の中、あたしはその場にうずくまった。


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