《短編》ガラクタ。
引き戻すようなそんな声は、あたしの鼓膜をつんざくように響いた。


驚いて携帯を耳から離し、ディスプレイを恐る恐る確認してみれば、“アラタ”と記された文字が目に入る。


それでも声は彼のものなんかじゃなくて、戸惑うように言葉が出ない。



『俺っす、コージっす!!』


「…何、一体…」


『今、どこっすか?!
大変なんす、すぐ行きますから!!』


大変だということは、後ろのサイレンやコージくんの声色でわかる。


それでも何があったのか問えば、聞きたくもなかったことを言われる気がして、ただ無意識のうちに体が震え始めた。



『マイさん!!
アラタさんが飛び降りたんすよ!!』


一体、何を言っているのだろう。


全然笑えないし、エイプリルフールじゃねぇんだよ、なんて台詞のひとつも出てこないまま。


頭の中には道端に転がる鳥の死骸が浮かんでいて、アラタがあんな風になるだなんて、キャグにしては出来が悪い。



「…冗談はやめてよ…」


『とにかく落ち着いてください!!』


落ち着くのは、コージくんの方だと思った。


みんなであたしを騙して笑ってるんだろうし、行けばみんなの笑いものになるじゃないか。



『良いから早く、場所を!!』


そんな声に背中を押されたように、無意識のうちにあたしは、実家の住所を告げていた。


すぐに電話は切れ、耳にはまだ、コージくんの悲鳴にも似た声色と、サイレンの音がこびり付いたように離れないまま。


手が震えて、まるで現実味を帯びていない。


あたしは騙されたフリをして、そして笑うみんなに蹴りを入れなきゃ、なんてことを考えながら、フラフラと立ち上がった。


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