《短編》ガラクタ。
包帯グルグルのアラタっぽいヤツが“沢村新”って書かれたベッドに寝てて、本気でコイツが誰だかわかんない。


アラタの本当の名前なんかこんなので知っても嬉しくないし、あたしのアラタはもっと格好良いんだから、コイツじゃないって思いたい気持ちもあったんだと思う。


冷静になればなるほど、涙が引いていく。


みんなにベタベタ触られてるし、本当のアラタならそんなのキレるはずなのに、ピクリとも動かないんだから。



「アラタ、どこに隠したの?」


「…マイ、さん?」


「偽モンで騙さないでよ。
今なら許してあげるから、本モン出しなさいよ!」


嘘だと思う気持ちと、これが現実なんだって気持ちが交互に入り乱れて、死なないでとか偽物だとか、そんなめちゃくちゃな言葉ばかり呟いていた。


サブはパンクのくせに泣くことしかしないし、チャマくんだって泣いてばかり。


世話好きコンビのコージくんとモッシュくんだって、落ち着いてとか、そんな同じようなことしか言ってくれない。


医者だって看護師だってお金もらってるくせに、コイツの目を覚まさせることすら出来ないんだから、みんな役立たずだ。



「…あたしのために絵描けよっ…!」


外の世界にはいつの間にか雨音が消えていて、漆黒の中で白いものが舞っていた。


今年最初の雪だって気付いて、その時初めて、あたしは生死の境を彷徨うアラタの手さえ握ってやってなかったんだと気が付いた。


彼の指の先は異常なまでに冷たくて、うっ血したようにところどころ人間らしからぬ色をしていた。


寒々しい空の下ではあたしの手を繋いでくれたはずなのに、なのに今は、握り返してもくれないのだから。


そんなことに、また涙が溢れた。


だってあたしは、アラタが居ないと生きていないんだから。


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