《短編》ガラクタ。

「お前、彼氏は？」


「あんなヤツ、啖呵切ってやったわよ！」


「…そっか。」


「そっかじゃねぇよ！
どんだけ心配したと思ってんのよ！」


強く言ってやったはずなのに、ただ声が震えて情けなかった。


そんなあたしにアラタは幾分悲しげに口元を緩ませ、“ごめん”と告げる。


謝るコイツなんて初めてだし、やっぱり別人なんじゃないのかって、そんなことを思ってしまう。



「…だって、お前居なくなったらつまんねぇじゃん…」


右腕で顔を隠した彼は、消え入りそうな声色でそう言った。


やっぱりあたしの所為だったのかと、そう思うと余計に言葉が出ないまま。



「…だからって、何も…」


「俺、鳳凰とか背負う資格ねぇんだよ。
お前から連絡ないだけでダメになるとか、そんな自分ありえねぇし。」


「…鳳凰居なくたって…たとえアンタが一生絵が描けなくなったって…死なれたらあたし、生きていけないじゃん…」


吐き出すように絞り出すと、まるでそんなあたしを確認するように、腕の隙間から瞳が投げられた。


アラタが死ぬかもしれないと思った瞬間、あたしの頭の中には鳳凰もぶっ飛んだ絵もなくて、ただ死なないでとしか思わなかったのだから。



「マイ。」


静かにあたしの名前が紡がれて、そして当てもなく先ほどまで彼の顔を覆っていた腕がこちらへと伸びる。


崩れ落ちるようにアラタに縋れば、彼はいつものように優しくあたしの頭を撫でてくれた。



「…頼むから、もうこんなことしないでよ…！」


「泣くなよ。」


「…謝るし、お願いだからっ…」


もう、最後の方なんて言葉になっていなかったろう。


アラタの体はいつの間にか熱を取り戻していて、それだけのことで安堵している自分が居るのだから。