《短編》ガラクタ。
「俺、お前の名前まだちゃんと聞いてなかった。」


「西野舞よ。
粉雪舞うみたいな儚く可憐な女、って字の舞。」


「長いしわかりにくいし、しかもどっちみち似合ってねぇよ。」


彼の胸に顔をうずめたまま、あたしはひとり不貞腐れた。


それでも減らず口がアラタらしくて、思わず笑ってしまうのだけれど。



「それよりアンタ、沢村新って言うんだね。」


「違う、これは世を忍ぶ借りの名前だ。
本当は福山雅治って書いてアラタって読むんだよ。」


「アンタ、やっぱ頭おかしいんじゃない?
もう一回飛び降りれば?」


眉を寄せて顔を上げてみれば、フッと笑ったいつもの顔があたしを捕え、大怪我してるくせに憎たらしいと感じてしまう。


真面目に聞いたあたしが馬鹿だったし、コイツと日常会話なんてやっぱり不可能なんだと思った瞬間。



「本当は、お前が好きって書くんだ。」


多分、キョトンとしたって表現以外にはなかっただろう。


好きとか言って欲しかったけど、でも、いざ言われれば驚いてしまい、相変わらず言葉は出ないまま。


ただ、やっぱり別人なのかと思った。



「おい、リアクションしろよ。
これじゃ俺、ただのイタくて恥ずかしい人じゃん。」


「…頭、大丈夫?」


「お前がだよ、馬鹿。」


何だか、とりあえず気が抜けたように顔を見合せて笑ってしまった。


部屋はいつの間にか薄明かりの色に染められていて、新しい夜明けも近いのだろう。



「アンタ寝てた時、みんなベタベタ触っててさ。」


「…怒ってんの?」


「当然でしょ?」


好きとか恥ずかしい言葉なんてあたしには言うことも出来なくて、それでもアラタは困ったように苦笑いを浮かべていたけど。


それでもきっとあたし達には、これで十分なんのだろう。


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