はじめては全部きみでした。



「千代…」

「結弦…ずっと、ごめんね」



どうして謝るんだ。

お前は何も悪くない。

悪いのはーーーーー俺なのに




「結弦の気持ちを無視して縛りつけてた。そうすればいつかはまた私に向いてくれると思った」

「それは…」

「ヒナとは、あれからすぐに無視するようになったの。一度も話してない」




泉の席に手を置いた。




「結弦……結弦の気持ち、ちゃんと聞きたい」




初めて千代が、真っ直ぐ俺に向き合った。



俺の気持ちーーー



ー結弦君!!!!ー



泉の声が聞こえる。

ずっと…聞こえていたんだ。



泉と出会って俺は、俺の中にあるいろんな気持ちを知った。



それは千代と過ごしている時とは全くの別物で、

こんなに誰かに取られるのを疎ましく思うなんて。





「千代…俺は、お前のこと…凄く好きだった。でも、俺達は恋人じゃなかった。ずっと、友達の延長線にいたんだと思う」



千代に引っ張られてばかりだった。

それでいいと思ってた。



でも泉に出会って知ったんだ。

本当に手に入れたいものは、自分からいかなきゃいけない。




「結弦……嘘でいい。嘘でいいから、最後に…"愛してる"って……言って?」




それを言うのは簡単なこと。

でも。



「ーーーごめん、できない」



もう、中途半端な俺は嫌なんだ。




千代は少しだけ笑って、

「…結弦のことなんて、これっぽちも好きじゃなかったんだから」

震える声で言った。





そして涙を隠すように下を向いた。





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