はじめては全部きみでした。



動物園に入るなり、先輩は大はしゃぎ。


特に何故かゴリラの前ではずっと歩き方の真似をしたりしていて、

あんなにかっこいい人がって思うとなんだか面白い…



「先輩面白すぎます…」

「久しぶりだからさー」




どうして今まで結弦君と重ねてみていたんだろう。

先輩と結弦君じゃ、全然違う。



「俺んちね、父さんしかいないんだ」



急に先輩が話し出した。




「父さんは仕事が忙しくていつも海外に飛び回ってた。だから俺は、幼少期は婆ちゃんに育てられなんだ」

「そうなんですか…」

「でも婆ちゃんは身体が弱くてあまり外にはいけなかった。でも、家にはたくさんの外国文学があってさ。俺はずっとそればかり読んでた」

「だから翻訳家を…?」

「それもある。だけど、一番の理由は……死んだ母さんの職業だったから」



死んだ…?

先輩は少しだけ寂しそうな表情をしている。



「病気でさ。俺が物心つく前に亡くなったんだ。だから俺は、母さんのことをほとんど知らない」

「ならどうして?」

「婆ちゃんが言ってたんだ。母さんが"この本は全部真のために残しておいてほしい"って言ってたって。外国文学は……母さんが唯一遺してくれたものなんだ」



なんて言葉をかけたらいいのかわからない。

そんな悲しい過去を持っていても、先輩は明るくてそんなのを感じさせない。


今までどれだけ我慢してきたんだろう。



「俺は、俺の知らない母さんのことを知りたくて…だから絶対翻訳家になりたいんだ」



かっこいいと思った。

それを聞いてすごくドキドキした。

先輩のことをもっと知りたい。


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