【短編】本日、総支配人に所有されました。
まずは腕をほどき、自分の身体を解放した後に「ごめんなさいっ」と一言お断りしてから、バチンッと頬を叩いてみた。


不機嫌そうに「痛ってぇなぁ…」と呟き、起き出した支配人の髪の毛が乱れていた。


「お前、叩くの強すぎ!」


「すみません…、何度も起こしたのですが起きなかったので…」


「ほら、身支度整えたら行くぞ。お前は化粧直しをしてから、支配人室に集合な」


「分かりました…」


ベッドから立ち上がり、乱れた髪の毛をかきあげながら私を見下ろし、指示を出す姿にキュンとしてしまった。


仕草と伏し目がちな目線が大人の色気のようなものを感じて、胸を締め付ける原因になった。


寝起きが悪すぎて、不機嫌そのものなのに・・・。


「失礼致しました。お茶とチョコレートありがとうございました」


私は一礼をし、支配人の休憩室を出た。


支配人にドキドキさせられた後は、違うドキドキが待っていた。


どうやら、迷子になったらしい・・・。


あれ?


地下から階段で上がって、右に曲がって良かったんだよね?


ボイラー室の前なんて通った?


薄暗い廊下を通り、ウロウロしていると・・・後ろから声をかけられて肩がビクッと縮こまる。


「お前、そっちは違うから!」


「…すっ、すみません」


「まさか、とは思って急いで部屋を出たんだが、そのまさか…だったとはな。お前は期待を裏切らなくて面白い奴だな」


「………?」


「こっちだから、着いて来い」


支配人は笑いを堪えているのか、拳を口に当てがい、肩が震えてる。


"期待を裏切らなくて面白い奴"───良い意味にとって良いのか、悪いのか・・・。


良く分かりません。
< 10 / 73 >

この作品をシェア

pagetop