【短編】本日、総支配人に所有されました。
「やっぱり帰るか?」


少しだけ悲しげな表情をした支配人が小さく呟いた言葉が、私の胸の奥に突き刺さる。


強引に誘ったくせに、今更・・・。


「嫌ですっ、帰りませんっ!」


ブンブンと首を横に振り、抵抗をして拒否をして、キッと目尻に力を入れて睨み付ける。


「下を向いて歩く程に嫌がってるなら、無理強いはしない。…嫌だよな、休日まで上司と一緒に居るなんて…」


「……ち、違うんですっ。嫌、だか、ら…じゃないんです…」


私の態度が支配人を傷付けてしまっていた。


職場での傲慢な態度ではなく、か細く消えてしまいそうな声で私に話しかける。


私も語尾に近付くにつれ、小さくなりながらも否定をする。


前を向けなかったのは・・・、顔を見て話せなかったのは意識をしてしまい、恥ずかしかったから・・・。


「…むしろ、逆なんです」


「逆?」


「…支配人の毒牙にやられて、顔を見れないんです。と、とにかくっ、上司と部下の関係は保ちたいので、あんまり毒牙を振り撒かないで下さいっ」


必死に声を絞り出し、思いの丈を伝えた。


恋なのか、恋じゃないのか、今はまだ分からないけれど・・・、一緒に居れば居る程に上司と部下の関係は崩れて行くだろう。


優しくされればされる程、支配人を知れば知る程、深みに嵌るのは自分だけだと思う。


支配人程の聡明で周りからの信頼も厚く、麗しさを併せ持つ人が、私なんかを好きになるはずがない。


───だから、その前に、好きになる前に気持ちを抑えるしかないんだ。
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