【短編】本日、総支配人に所有されました。
「毒牙…とは何だ?」


「………。何か、よく分かりませんが、私にとっては毒なんです。支配人は気付かない内に毒をバラまいていますので、自覚した方がいいですよっ」


必死で絞り出した答えに対して、真顔で聞いてきたから私の口元が緩んでしまった。


「…分かった。お前に対しても傲慢な態度が過ぎたかもしれない。これからは気をつける」


笑いを堪えている私に対して、支配人は謝罪をしてきた。


私が言った毒牙とは支配人のバラまく色気の事を指しているが、支配人は多分・・・仕事中の毒舌や態度の事と勘違いしている。


確かに仕事中に毒を吐くし、傲慢な態度の時もあるけれど、後から必ずフォローを入れるのが支配人だと私は知っている。


・・・だから、勘違いして欲しくはない。


「いや、そーゆー事じゃなくて…」


「………?違うのか?」


「全然っ、違いますっ!支配人は自覚してないみたいですが、えっと…特別扱いしちゃうと…好きにな、…いや、勘違いされちゃいますよって事です」


否定したいのに上手く言葉が伝えられずに、途切れ途切れになる。


支配人はそんな私を見て、目がきょとんとして拍子抜けしている様だった。


私が言い放った言葉は、最高責任者でもあり、上司の支配人にかけるものではなく、今更だが取り返しがつかない事に気付く。


「…つまり、それは…俺がお前を特別扱いしている前提で、俺がお前を好きだと言う事か?」


「……っ、え、えっと」


「…だったら、勘違いしてればいい。上司として誘った事にするより、お前の事が好きな同僚がデートに誘った事にすれば、前者よりも気が楽だろ?…もう一度、聞く。帰るなら今だぞ?」
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