【短編】本日、総支配人に所有されました。
意識をしたら負けだと頭では理解しているものの、行動が伴わない。


鼓動もうるさく高鳴るばかりで、落ち着かない。


「窓、少しだけ開けるから…。もしかして、車酔いか?全然、話もしないし…」


「だ、大丈夫です。暑いだけです…」


暑くもないし、車酔いでもないが、窓の隙間から入る爽やかな風が心地良い。


仕事中ではないので、一つにまとめずに解放されているセミロングの髪が風になびく。


「東京の街中をドライブしたのは初めてです。いつもは寮とホテルの往復が主ですし、タクシーもバスも利用しませんから…」


通り過ぎて行く街並みを眺めながら、普段の生活を思い出す。


近県から東京に引越ししてからは、まだ仕事にも東京にも不慣れで疲労が溜まる為、出かけても目的を済ますだけ。


早番で早く上がっても出かける気力はないし、友達との連絡も億劫になる時もある。


「良かったな。知り合いが居なくて、独りだとつまらないだろ?たまに連れて行ってやるよ」


「だーかーらっ、そーゆー発言が女子は勘違いするんですって…!支配人はいつもそうやって口説いてるんですか?」


「……口説かれた事はあっても、口説いた事はないな。お前が俺に口説かれたと言うなら、初めて口説いた事になるな」


完全に遊ばれている私。


支配人の事だから冗談で誘っている訳ではないと思うけれど、恋愛感情ではなく、同情や上司としてのお誘いかもしれないから、図に乗って間に受けてはいけない。


深みにはまりたくない。


完璧主義者な支配人が私を所有する理由は、一流のサービススタッフに仕立てる為。


今日だって、そう、私の子供っぽい容姿を改造する計画なんだから───・・・・・・
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