【短編】本日、総支配人に所有されました。
大人の階段を登るという事は、好き合っているかどうかも確認をせずに発展してしまう事なのだろうか?


理屈では流されてはいけないのだと理解はしていつも、理性に歯止めが効かなかった。


一度目は触れるだけのキス、二度目は吐息が漏れるようなお互いを確かめ合うキス。


「……っふぁ」


「ココが車内で良かったな。歯止めが効かなくなるところだった…」


解放された時には息も絶え絶えな私の頭を優しく撫でて、再びシートベルトをする支配人。


車が走り出し、駐車場から車道に出て少しだけ時間が過ぎた後に問いかける。


「…あの、えっと、」


「………?何だ?」


「…やっぱり何でもないです」


『恋人同士になれますか?』と聞いてみようと思ったけれど、支配人にとっては一時の迷いでキスをしただけかもしれないので、言葉を飲み込んだ。


キスぐらいで付き合えだなんて幼稚だって笑い飛ばされるかもしれないから、背伸びをして確認する事を我慢する。


キスぐらい大丈夫、キスぐらい平気。


ちょっと優しくされたからって、勘違いして好きになったりしない。


「…場の雰囲気に流されるのは俺だけにしとけよ。他の男が近寄っても自分自身で対処する事!」


「………?何でですか?」


「つまり、そのままの意味だ。仕事上、一ヶ月間の所有者は俺だ。他の男との恋愛沙汰は一切禁止だ」


「良く分からないのですが、支配人とは恋愛しても良いのですか?」


「……さぁな。自分で考えろ」


一筋縄では行かなそうな成り行き任せの恋愛もどきは、正直どうして良いのか分からない。
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