【短編】本日、総支配人に所有されました。
「食べながらでいいんだけどさ、ちょっと聞いてくれるかな?会ったら話そうと思っていた事があって…中里さんにオファーなんだけど料飲事務やらない?派手さはないけど、食材の原価計算とか楽しいよ?…もし良かったら考えておいてね」


「……はい、考えておきます」


「勝手な行動をすると真壁総支配人に怒られちゃうから、後程、きちんと話をして推薦しときます。それまでは聞かなかった事にしておいて」


「……はい」


終始、俯きっぱなしの優月ちゃんは緊張しているかに見える。


優月ちゃんの方向を見ながら話している星野さんだったけれど、緊張して固まっているのに気付いたのか、話を終えると前向きになり、私の方を見て話す。


お箸を持ったままで箸が進んでなかった優月ちゃんは、星野さんの視線から外れるとやっと口に食べ物を運んだ。


優月ちゃん、顔が真っ赤だ。


「篠宮さんは以前のホテルではフロントに居たんだよね?確かに接客向きだと思うよ。レストランでも大歓迎だからね、希望の部署は前向きに考えてみて」


「ありがとうございます!」


星野さんからのお誘いは勿論嬉しいのだけれども、婚礼サービスはめちゃくちゃ疲れました。


仕事スイッチが入った星野さんは人が変わったように厳しく、それでいてお客様の前では極上の笑顔でサービスをする、正にプロなのだ。


レストランサービスは嫌いではないが、配膳会の方々のレベルにも着いていけず、自分の限界が見えた気がした。


星野さんは『慣れもあるよ』と言うけれど、慣れだけではない、持って生まれた天性もあるので私には向いていないかもしれない。
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