【短編】本日、総支配人に所有されました。
「明日、朝御飯から作ろうと思って…買い出しに行って来ました。とりあえず、冷蔵庫に入れさせて貰おうと思ったんです」


塞がっていた両手が空いたので、支配人の背中に手を回してジャケットの生地を軽く掴む。


「はぁー、お前は馬鹿か?」


大きな溜め息をつきながら私の事を引き離し、顔を見て真剣な顔つきで注意をされる。


「買い出しなら明日の朝にすれば良かっただろ!わざわざ夜間に女が一人で行くなんて、危険すぎる!何事もなかったから良かったものの…気をつけろ」


「そうなんですけど…でも、」


「でも、何だ?」


私の両腕を横側から掴み、まるで子供に注意をするかのように逃げられないようにガードされる。


一人歩きに多少の不安もあったけれど、明日の朝御飯から用意したかったし、それに何より・・・。


「食材を冷蔵庫に入れている間に帰って来るかな…と思ったので…」


プライベートで会いたくなっただけ。


絶対的な支配領域を持つ職場では、彼は近くに居ても手の届かない遠い存在。


「……つまり、先に行って待ってようと思ったのか?」


「はい、支配人のお顔を見たら帰ろうと思ってました…」


「本当に馬鹿な奴だな」


「……っう、すみ…まひぇん…」


一通り怒られた後に両腕を解放されたが、頬を軽くつねられた。


つねられながらも小さな声で謝り、スーパーの買い物袋を拾う。


やっぱり卵が割れていてパックから流れ出し、他の食材にまとわりついてベタベタしている。


割れた卵に嫌気がさして「はぁ…」と溜め息をつき歩き出そうとした時、両手の重みがふわっとなくなり、支配人が持ち上げた事に気付く。


さり気ない優しさが好き。
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