【短編】本日、総支配人に所有されました。
「ありがとうございます…。卵割れてるからスーツ汚さないで下さいね」


「割れてるのは知ってる。汚れたら、責任持って明日、クリーニング出して来い。取りに行くのは次の公休で大丈夫だ」


「はい、分かりました」


分かりずらいけれど、ソレは次の公休も会いに来いよって言う意味だと勝手に解釈する。


『勘違いしてろよ』と言う先日の言葉、鵜呑みにしている私。


からかわれているだけかもしれないから、傷付くのは私だと理解はしているが、認めてしまった恋心は引き返せない。


前身あるのみ。


「これでよしっ、と。」


支配人のマンションに着き、真っ先に割れた卵でベタベタになった食材を拭きながら冷蔵庫にしまった。


ベタベタになってしまった手を洗い流し、シャワーを浴びている支配人を待つ。


待つ間にソファーで横になりながらテレビのスイッチを入れ、たまたま放送されている恋愛ドラマを見る。


キスしたりイチャイチャしているシーンで支配人がちょうど浴室から出て来て、私達は目が合う。


普段からは想像出来ないルームウェアに身を包み、濡れたままの髪を拭きながら隣に座り、何かを言いたげな表情をして私の顔を見つめる。


濡れている髪が、より一層に色気を引き立たせる。


何も言わないので、目の前のイチャイチャシーンからの流れのベッドシーンに対して後ろめたくなり、支配人から顔を背けた。


「…可愛いな、お前。ベッドシーンに反応して顔が赤いのか?それとも、何かを期待しているのか?」


無理矢理に顔を自分側に向け、ニヤリと不敵な笑いを浮かべて頬に触れてきたが、私の身体は強ばってしまう。


顔が近付いてきて目をギュッとつむったが、唇が重なる寸前で止められた。


「………?」


「髪、乾かしてくる」


寸止めされた私はゆっくりと目を開き、支配人の言葉を受け入れるように頷く。
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