気づけばいつも、君がいて。
いつも通りのやり取りに安心してしまっていたら

キーンコーンカーンコーン

聴きなれた、中学校の授業開始チャイムの音が優雅に街に響き渡る。

おそるおそる、千歳の方を向くと、先程の表情が嘘かのようにさわやかな笑みを浮かべていた。

まさか、暴君・千歳も心を入れ替えて私に優しく接するようになったの…?と感動していると、天使のような表情のまま千歳が言った。

「楓、本気で走らなかった…わかってるよな?」

千歳の笑みが優しさから来るものではなく、怒りのボーダーラインを超えたからだと察して顔が青くなる。

「もちろんです!」

これ以上千歳の顔を見るのが怖くなって、ひたすら前を見て走る、走る、走る。


楽しい一日の、はじまり、はじまり。


***************************************************
箱根駅伝も真っ青な大レースを繰り広げてギリギリ間に合った一時間目が終わり、ひと眠りしようかと思っていた時、

「今日も寝坊したんでしょ?」

鈴みたいな声と共に視界にお姫様が入ってきた。

陶器のように白い顔に通った鼻筋、大きな目を縁取る、繊細なレースみたいなまつげ。

栗毛色の、ふんわりとした巻髪が世界一似合う私の親友。

「翠は何でもお見通しだよね」

笑いながら言うと翠は少しむくれて、

「もうっ、反省してないでしょう。」
と頬を膨らます。なんだこの可愛い生き物。
しばし見とれていると、

きゃー!っと女の子達の悲鳴が響き渡る。どこからの声かは目を向けなくともわかる。
< 4 / 9 >

この作品をシェア

pagetop