キミが笑ってくれるなら、それだけで…
「…っはあ、はあ、はー…」

乱れた呼吸を整えながら、

たどり着いた校舎裏で、私は

今までにないほどの罪悪感で

いっぱいだった。

最後に見た日下部くんの表情が

頭に浮かんで、何故だか涙が

溢れそうになる。

幸ちゃんの傍に座り、いつもと同じ

ように過ごすのに、頭の中には

寂しそうな瞳をした日下部くんが

チラついて、落ち着かない。

どうして、こんなにも胸が痛むんだろ?

それこそ、1年の初めの方は

こんな風に思ったりして、

辛かったけど、相手を思えばこその

事なんだからと言い聞かせてた。

それも少しずつ慣れてきて、周りも

私を冷たい人間として認定して

私にとっていい距離感だったのに…

それでいいと思ってたのに、

どうしてまた、胸が痛むのか

分からないよ。

あの子達の言うように、冷たく

突き放したから?

拒絶したから?

ううん…違う。

それはいつもの事だもん。

ただ、今までの人達とは違う

反応が返ってきて動揺したんだ、私。

太陽みたいに明るくて

ニコニコ笑顔がトレードマークの

向日葵みたいに真っ直ぐ

向かってくるから。

だけど、これで良かったんだよ。

私と居たらきっと、日下部くんを

傷付けることになるんだから。

って、傷付けたのは私か…

自嘲の笑みがこぼれる私は、

幸ちゃんに問い掛けた。

「幸ちゃん…これでいいんだよね?」

「にゃーにゃー」

私の言葉に返事をする幸ちゃん。

「そうだよね…

これで日下部くんの笑顔は

守れるよね…」

幸ちゃんを膝に抱き、私は目を閉じた。

教室に戻った私の元に、日下部くんの

首根っこを掴んだ羽柴くんと

南野さんがやって来た。

「ほら!陽人!

花宮さんに謝りなさい!」

南野さんの言葉と同時に首根っこを

離した羽柴くん。

そして、何故か私の机の横に

正座して上目遣いの日下部くんに

何事かと見ているクラスの人達…

今までにないパターンに、

さすがの私も目が点になる。

何がどうなってるんだろう?

そもそも謝るって何のこと?

訳が分からず、正座したままの

日下部くんに視線を合わせて、

首を傾げると…

パコーン!!

南野さんと羽柴くんが同時に

教科書で日下部くんを叩いた!

えっ!?

「「早く謝れ!!」」

叩かれて怒られて…

何の事かは分からないけど

私は声を掛けていた、自然に…

「えっと…大丈夫?

というか、日下部くんはどうして

正座してる、の?

足痛めるから、やめた方が

いいよ」

サッカー部なんだったら

こんな固い床で座ってたら

支障が出そうだし…

そう日下部くんに伝えると、

「花宮はやっぱり優しいっ!!」

え…?

優しい?私が?

あり得ないでしょ、それは。

日下部くんって本当に私の噂

知らない?…のかな。

さっきまで借りてきた猫状態だった

日下部くんは目をキラキラさせて

私を見つめて、ニコニコしている。

私が優しい?とか

意味が分からないよ。

私の噂知らないのかな?

教室中からの冷たい視線に

耐えかねて

南野さんと羽柴くんを交互に

見つめた。

すると、南野さん眉を下げて言った。

「昼休み、陽人がしつこく誘ったって

聞いたの。

断ってるのに、何度も食い下がってる

所を隣のクラスの友達が教えてくれて。

幼馴染として謝りたくて…」

あー、そういうこと…

別にいつもの事だから

気にしなくていいのに、律儀で

優しいんだな、南野さんって。

でも、なんか嬉しい…かも。

私はその想いを、そっと心に閉まって

いつものように答えた。

「別に気にしてないから」と。

それを聞いてホッとした様子の

南野さんと日下部くんに、

私も内心ホッとしていた。

こういう突発的な事が起きるたび、

心が乱されるけど、表情筋が死んでて

良かったと思う私がいる。

人と関わることを避けて生きる

私には必要のないものだから。

喜怒哀楽の感情や、それに伴う表情は。






















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