キミが笑ってくれるなら、それだけで…
保健室での一件以来、
私は普段の自分を取り戻していた。
あの日、日下部くんに言った
言葉のあと…
何も言わず何も聞かず
手当てだけをして
去っていく日下部くんに
私は心の中で感謝し
これで、もう誰かを
傷つけることも悲しませることも
ないと安堵した。
たまに日下部くんの視線を
感じても私は気付かない振りを
して、いつも通りの生活に戻った。
これでいい…
そう思ってた。
だけど…
問題がひとつ。
あの日を境に日下部くんに
好意を寄せる人達から
度々呼び出されては
同じ質問を尋ねられ、
同じ返事をする私。
「日下部くんとはただの
クラスメイトで何もない」と。
だけど…
「気に入らない」と叩かれる私。
私に敵意を剥き出しにしてくる
人達にでさえ、私の頭の中は
『私に関わると危険なのに』と
心配になる。
そんな私をよそに
ご丁寧に理由を教えてくれた
女子が目くじら立てて
「あんたみたいな、ぼっち女に
優しい日下部くんは同情で
話し掛けてるだけ!
勘違いしないでよね!」と
言っていた。
ぼっち女は否定しないけど、
勘違いなんて微塵もしていない事は
断固否定したい。
噂によると日下部くんは
サッカー部のエースで
学年を問わず人気があるらしい。
理由は簡単。
180センチの身長と可愛い顔立ち、
誰にでも平等に優しく、
無邪気な笑顔とサッカーをしている
真剣な表情とのギャップがいい。
…とクラスの女子が話していた。
聞きたくなくても聞こえてくる
日下部くんの人となりを知って
へえーそうなんだ、と他人事に
聞いていたけど…
こう毎日呼び出されては
私1人の時間が擦り減る一方だ。
何とかしたくても、未経験の事態に
正直なところ参っている、私。
それに加えて叩かれるところが
ジンジンして、今では身体中が
青タンだらけ…
見える部分にされないだけ
有り難い。
だって、見える部分に傷を
作ろうもんなら、日下部くんが
関わってきそうで。
せっかく突き放しに成功したのに
水の泡になるのだけは御免だ。
そして今も…
もう何度目かも分からない
呼び出しに、内心溜め息が出る私は
呼び出し場所の体育館裏に
向かう為階段を降りているんだけど
今日何度行き来していることか…
休み時間の度に呼び出されて
まだ完治していない足が痛む。
そもそも律儀に行かなくても
いいんだけど、行かなかったら
更に事態が悪化しそうで
仕方なく出向いてるわけだ。
女子の怒りが収まるまでの辛抱だと…
その時だった。
ドンッ!!
一瞬何が起きているのか
分からない私は声を出す事も出来ず
ただ、階段下に向かって落ちている
事だけは分かった。
スローモーションのように映る景色に
私は至って冷静に落ちてるって
思った。
私は衝撃に備えてぎゅっと目を瞑った。
ドサッ!!
えっ…痛く、ない?
そっと目を開けると
私の身体を抱きとめてくれる
人に驚いた。
日下部くん…
「大丈夫かっ!?花宮」
心配そうに覗き込む日下部くんは
片手で手摺り、片手で私を抱いている。
すごい…
やっぱり男の子なんだ…と思った。
線が細く見えても、運動部なだけあって
抱きとめる力は強い。
冷静にそんな事を考える私に
日下部くんは焦った様子で
「どっか痛むのか!?
おい、花宮?」と声を掛けながら
私を揺すった。
身体のあちこちに出来た青タンに
触れられて痛みを感じた瞬間
私は我に返った。
「…うん、大丈夫。
ありがとう、助かった」
日下部くんの腕からすり抜けた私は
お礼を告げて上を見た。
だけど、そこには誰も居なくて…
押されたような気がしたけど、
まさかね。
幾らなんでも、そこまではしないか…
私は上に向けた視線を戻して
階段を降りようと一歩踏み出した。
そんな私の行く手を阻むように
回り込んだ日下部くんが
私の腕を掴んだ。
掴まれた所が痛んで顔を歪めた私を
日下部くんは怪我したと勘違いしたのか
「保健室行くぞ」と言って
腕を掴んだまま歩き出した。
周りの視線など入っていないかの
ようにずっと腕を掴む日下部くんに
私は言った。
「どこも怪我なんかしてないから
保健室はいい。
私、用事あるから離して」
振り返った日下部くんは
あの日と同じように怒りを
滲ませながら、私を見下ろしている。
「痛そうな顔して何言ってんだ」
「日下部くんの力が強くて
痛かっただけだから!」
私がそう言って凄んでも
離そうとしない日下部くんは
「分かった…
じゃあ、これなら痛くないだろ」
そう言って私の手を握って
また歩き出す。
こんなの誰かに見られたら
ますます呼び出しが増えるんだけどな。
そう思いながら私の手を握って
歩く背中に話し掛ける。
「分かった、行くから。
だから離して」
「無理、駄目」
さすがの私もカチンときた。
「関わらないでって何度言えば
分かるの!
そのせいで毎度呼び出されて
いい加減うんざりしてるの!」
私の叫び声にゆっくりと
振り返った日下部くん。
「は?それ、どういうこと?」
あ…つい勢いで言ってしまった。
っていうか、
日下部くんの表情がどんどん
険しくなっていく。
やばい!
あーもう!どうしよう!
私の馬鹿!!
内心焦りまくってる私の手を
ぎゅっと握る日下部くんは
険しい表情のまま
私を見下ろしている。
下を向いた私の頭上で
はあーと溜め息をついた日下部くんは
「とにかく保健室行くぞ」と
また歩き出した。
私は普段の自分を取り戻していた。
あの日、日下部くんに言った
言葉のあと…
何も言わず何も聞かず
手当てだけをして
去っていく日下部くんに
私は心の中で感謝し
これで、もう誰かを
傷つけることも悲しませることも
ないと安堵した。
たまに日下部くんの視線を
感じても私は気付かない振りを
して、いつも通りの生活に戻った。
これでいい…
そう思ってた。
だけど…
問題がひとつ。
あの日を境に日下部くんに
好意を寄せる人達から
度々呼び出されては
同じ質問を尋ねられ、
同じ返事をする私。
「日下部くんとはただの
クラスメイトで何もない」と。
だけど…
「気に入らない」と叩かれる私。
私に敵意を剥き出しにしてくる
人達にでさえ、私の頭の中は
『私に関わると危険なのに』と
心配になる。
そんな私をよそに
ご丁寧に理由を教えてくれた
女子が目くじら立てて
「あんたみたいな、ぼっち女に
優しい日下部くんは同情で
話し掛けてるだけ!
勘違いしないでよね!」と
言っていた。
ぼっち女は否定しないけど、
勘違いなんて微塵もしていない事は
断固否定したい。
噂によると日下部くんは
サッカー部のエースで
学年を問わず人気があるらしい。
理由は簡単。
180センチの身長と可愛い顔立ち、
誰にでも平等に優しく、
無邪気な笑顔とサッカーをしている
真剣な表情とのギャップがいい。
…とクラスの女子が話していた。
聞きたくなくても聞こえてくる
日下部くんの人となりを知って
へえーそうなんだ、と他人事に
聞いていたけど…
こう毎日呼び出されては
私1人の時間が擦り減る一方だ。
何とかしたくても、未経験の事態に
正直なところ参っている、私。
それに加えて叩かれるところが
ジンジンして、今では身体中が
青タンだらけ…
見える部分にされないだけ
有り難い。
だって、見える部分に傷を
作ろうもんなら、日下部くんが
関わってきそうで。
せっかく突き放しに成功したのに
水の泡になるのだけは御免だ。
そして今も…
もう何度目かも分からない
呼び出しに、内心溜め息が出る私は
呼び出し場所の体育館裏に
向かう為階段を降りているんだけど
今日何度行き来していることか…
休み時間の度に呼び出されて
まだ完治していない足が痛む。
そもそも律儀に行かなくても
いいんだけど、行かなかったら
更に事態が悪化しそうで
仕方なく出向いてるわけだ。
女子の怒りが収まるまでの辛抱だと…
その時だった。
ドンッ!!
一瞬何が起きているのか
分からない私は声を出す事も出来ず
ただ、階段下に向かって落ちている
事だけは分かった。
スローモーションのように映る景色に
私は至って冷静に落ちてるって
思った。
私は衝撃に備えてぎゅっと目を瞑った。
ドサッ!!
えっ…痛く、ない?
そっと目を開けると
私の身体を抱きとめてくれる
人に驚いた。
日下部くん…
「大丈夫かっ!?花宮」
心配そうに覗き込む日下部くんは
片手で手摺り、片手で私を抱いている。
すごい…
やっぱり男の子なんだ…と思った。
線が細く見えても、運動部なだけあって
抱きとめる力は強い。
冷静にそんな事を考える私に
日下部くんは焦った様子で
「どっか痛むのか!?
おい、花宮?」と声を掛けながら
私を揺すった。
身体のあちこちに出来た青タンに
触れられて痛みを感じた瞬間
私は我に返った。
「…うん、大丈夫。
ありがとう、助かった」
日下部くんの腕からすり抜けた私は
お礼を告げて上を見た。
だけど、そこには誰も居なくて…
押されたような気がしたけど、
まさかね。
幾らなんでも、そこまではしないか…
私は上に向けた視線を戻して
階段を降りようと一歩踏み出した。
そんな私の行く手を阻むように
回り込んだ日下部くんが
私の腕を掴んだ。
掴まれた所が痛んで顔を歪めた私を
日下部くんは怪我したと勘違いしたのか
「保健室行くぞ」と言って
腕を掴んだまま歩き出した。
周りの視線など入っていないかの
ようにずっと腕を掴む日下部くんに
私は言った。
「どこも怪我なんかしてないから
保健室はいい。
私、用事あるから離して」
振り返った日下部くんは
あの日と同じように怒りを
滲ませながら、私を見下ろしている。
「痛そうな顔して何言ってんだ」
「日下部くんの力が強くて
痛かっただけだから!」
私がそう言って凄んでも
離そうとしない日下部くんは
「分かった…
じゃあ、これなら痛くないだろ」
そう言って私の手を握って
また歩き出す。
こんなの誰かに見られたら
ますます呼び出しが増えるんだけどな。
そう思いながら私の手を握って
歩く背中に話し掛ける。
「分かった、行くから。
だから離して」
「無理、駄目」
さすがの私もカチンときた。
「関わらないでって何度言えば
分かるの!
そのせいで毎度呼び出されて
いい加減うんざりしてるの!」
私の叫び声にゆっくりと
振り返った日下部くん。
「は?それ、どういうこと?」
あ…つい勢いで言ってしまった。
っていうか、
日下部くんの表情がどんどん
険しくなっていく。
やばい!
あーもう!どうしよう!
私の馬鹿!!
内心焦りまくってる私の手を
ぎゅっと握る日下部くんは
険しい表情のまま
私を見下ろしている。
下を向いた私の頭上で
はあーと溜め息をついた日下部くんは
「とにかく保健室行くぞ」と
また歩き出した。