キミが笑ってくれるなら、それだけで…
部活が終わって部室棟から

出て来る日下部くんを待つ私は

ドキドキする心を落ち着けようと

深呼吸をする。

大丈夫…上手くやれる…と

言い聞かせていた。

その時…

部室棟からぞろぞろと出て来る中に

日下部くんは居た。

部の中でも一際目立つ日下部くんは

無邪気な笑顔で部員の人と話してて

まだ私には気付いてないみたい。

いつもは日下部くんから

声をかけてくれたけど

今日くらい私から声を掛けよう!

どんどん近くに歩いてくる

日下部くんに駆け寄り

私は声を掛けた。

「日下部くん!」

「えっ!?日和!?」

私が声を掛けた事に心底

驚いた顔で固まっていて

大きな目をパチパチする姿を見て

可愛い…好きだなって思った。

部員の人に背中を押されて

私に駆け寄ってくる日下部くんは

突然の待ち伏せにびっくりしていて

可笑しかった。

これは、私なりの日下部くんへの

ちょっとした仕返しだ。

いつも背後から突然話し掛けられる

人がどれだけ驚くかを

知って貰うための。

「帰ったんじゃなかったのか?」

「日下部くんに話があって

待ってたの…

今少し話せる?」

目を逸らさないで見つめる私に

何かを感じたのか

近くの公園で…って事になった。

学校からさほど離れていない

公園までの道のりが

とてつもなく長く感じた。

学校を出てから普段陽気に話す

日下部くんは前を向いたままで

一言も話さなかった。

部活終わりで疲れているだろうと

私はベンチに座るよう促した。

なんて言えばいいんだろう…

断る事は考えてたけど

内容までは考えてなかったな。

とりあえず部活中の日下部くんを

思い出して話し掛けた。

「日下部くんの部活姿

今日初めて見たんだけど…

すごいんだね。

普段の姿しか知らないから

すごく新鮮だった」

あの時の日下部くんは本当に

真剣で正直かっこよかった。

これが以前クラスの女子が言ってた

ギャップ萌えってやつ、かな?

「どこで見てたの?

ギャラリーの中にはいなかったよな?

居たら俺、すぐに気付くし…」

「教室から見てた。

それにクラスの女子が言ってた通り

人気者なんだね!

教室にも届いてたよ、日下部くんへの

応援」

あれだけの人気があって

可愛い子もたくさんいるのに

何で私を好きになってくれたか

分からない…

お世辞にも可愛いとは言えないし

性格も決して良いとは言えない。

むしろ敵ばかり作る私を好きだなんて

日下部くんはどこかおかしい

のかもしれない。

「教室から見てたって、

かなりの距離あるのに

何で分かったんだ?

めちゃくちゃ視力いいとか?」

ううん、違うよ…

好きだから見つけちゃうの…

信じられないかもだけど、本当。

他の人がどうとか関係なくて

ただ私の目には日下部くんしか

映らないんだよ…

「日下部くんは部員の中でも

一際背が高いから…」

「あー…そうかも」

目を合わせないまま話す私達に

一瞬の沈黙がおちる。

私は1人立ち上がって

ベンチに座る日下部くんを

振り返った。

私を見上げる日下部くんに

私は今から大きな嘘をつく。

本当は1番傷付けたくない人だけど、

これは日下部くんの為だから…

「最近色んな事が目まぐるしく

変わって動揺して言えてなかった

事があるって、さっき気付いたの。

日下部くん、私を好きだって

言ってくれたでしょ?

すごく戸惑ったけど嬉しかった。

でも…私好きな人いるから

気持ちには応えられない。

ごめんね、返事遅くなって…」

驚いた顔で固まっている日下部くんに

私は得意の仮面をつけて

微笑んだ。

そんな私をジッと見つめて…

「それって俺の知ってる奴?

ってかそいつと付き合ってんの?」と

質問されて内心ドキドキだけど

私は笑顔を崩さないように

「日下部くんの知らない人だよ。

付き合ってはないけど」

嘘を並べた。

そんな人いない…

好きなのは今私の目の前にいる

キミ…日下部くんだよ。

でも…伝えてしまったら

私の過去の罪もいずれは

話さないといけなくなる。

こんな私、日下部くんにだけは

知られたくないから…

それに…私は疫病神だから

誰かを幸せになんて出来ない。

不幸にしちゃうの…

そんなこと絶対いや…

太陽みたいに明るくて

温かくて優しい、笑顔が

素敵な日下部くんを

これからも見ていたい。

たとえ傍に居られなくても

好きって想いを伝えられなくても

笑っていてくれるだけで

私は幸せだから…

「だから、これからも

友達として接してくれると

嬉しいんだけど…

ずるいかな、私」

「いや、ずるくないよ…

でも知らなかったなー

日和に好きな奴がいるなんて。

そいつは…日和を

幸せに出来る奴なのか?」

振られてるのに振った私の

心配するなんて日下部くんらしい。

幸せに出来る奴なのか?って

言うけど、私は十分幸せにして

貰ったよ…

日下部くん、キミにね。

「ありがとう…

友達として、これからも

よろしくね」

日下部くんの最後の質問には

答えられなかったけど、

私は心の中で呟いた…

私を幸せにしてくれて

ありがとう。

伝えられないけど、

好きです、日下部くん。

どうか幸せになってね?

ずっと笑っていてね…

向日葵みたいに真っ直ぐで

周りを明るく元気にさせてくれる

日下部くん。

花言葉は「あなただけを見つめてる」

「憧れ」だったかな…

私にはない明るさと優しさに憧れた。

好きになった。

その笑顔を私は友達として

見つめていくね。













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