キミが笑ってくれるなら、それだけで…
その時、私をすごい目で
見つめる1人のおばさんが
立っていた。
この人、誰?
じっと見つめていると、突然
おばさんは私に声を荒げた。
「あんたさえ産まれてこなければ
小春は家を出ることも
こうやって死ぬことも
なかったのよ!!
なのに…なんで、あんただけ
生き残ってるのよ!
あんたが死ねばよかったのに!!
この疫病神!!』
まくし立てて喋る、おばさんの
大きな声に私は声を出すことが
出来ないほど震えた。
怒りながら、でも涙を流す
おばさんに私が声を出そうと
した瞬間だった。
目の前には律さんの背中があって
おばさんから守るように
私を背に隠した。
「小春さんのお姉様ですね?
心からお悔やみを申し上げます」
深くお辞儀をした律さんは
顔を上げて、一呼吸して
言葉を続けた。
「ですが、悲しいのは
あなただけではありません。
日和ちゃんも同じです。
大好きなパパとママを1度に
失ったんですから…
だから、この子をこれ以上
傷つけるなら私は許しません!」
はっきりとした口調で言った
律さんの気丈な態度に
フンと鼻を鳴らし、ドカドカと
音を立てて去って行った。
振り返った律さんに
抱きしめられながら、私は
心の中でその後ろ姿に謝った。
「ごめんなさい」と。
その日からだった…
この日の夢を見るようになったのは。
律さんとの生活は、朝に
花の水遣りをすることから
始まり、一緒にご飯を用意して
律さんの楽しいお話を聞き、
学校に行く前に必ず、パパとママの
仏壇に手を合わせて挨拶してから
学校へ行った。
帰宅して、ご飯を食べながら
その日あった事を話して、
お風呂も一緒に入った。
どこにでもある普通の家庭の
ように過ごす日々。
だけど、ベットに入り
眠りにつけば、必ずあの日の
おばさんの夢を見て、
朝起こしに来てくれる律さんに
ギュッとしがみついて泣いていた。
小学校を卒業して、中学校に
上がっても、夢を見てうなされ
律さんにしがみついていた私。
色んなことが理解出来るように
なっていた私の心は、
パパとママを亡くしたのは、
あの日の私のわがままのせいで
私が殺したも同然だと思うように
なっていた。
あの日のおばさんの言うことは
間違ってはいない…
責められて当然だと思った。
中学3年生に上がった頃、
私は律さんに心の内を話した。
「律さん…パパとママが
死んだのは私がわがままを
言ったからなの。
あの時、わがままを言わなければ
事故に遭う事も死ぬ事も
なかった…
だから、私が殺したも同然」
話す間、じっと聞いてくれていた
律さんは、話し終えると同時に
口を開いた。
「日和ちゃんがそう思って
しまう気持ち…
分からなくもないわ。
でもね、逆の立場だったら
日和ちゃんはパパとママを
責めるかしら?」
え…?
逆の立場?
もし逆の立場なら…
パパとママのせいじゃないよって
ただ事故に巻き込まれただけで
パパとママが悪いんじゃないって
言う。
「逆の立場なら、私は…
2人のせいじゃないよって言う。
だから、泣かないで。
責めないでって言う。
私の分も生きて笑ってって」
日和ちゃん、と言って
下を向く私の手を握った。
顔を上げると、優しく微笑む
律さんの笑顔がそこにあった。
「そう。
優しい日和ちゃんだから、
大好きな人を責めたり
恨んだりしない。
一緒に暮らしてまだ数年の
私でさえ、そう思うもの。
笑っていて欲しいって思うでしょ?
パパとママもきっと同じ気持ちよ?
大好きな日和ちゃんには
笑って生きて欲しいって
思ってるはず。
親ってそういうものよ」
そうなの?パパ…ママ…
「私が初めて日和ちゃんと
出会った時、日和ちゃんは
悲しみでいっぱいなはずなのに
私の傍にいる…1人じゃないから
大丈夫って言ってくれたの。
その時思ったの…
優しい子だなって。
それはきっとパパとママが
そういう風に日和ちゃんを
優しい子に育ててきたんだなって」
「優しくなんて…
ただ、あの時の律さん…
笑ってるのに悲しそうな顔してた
から。
1人ぼっちが寂しい事、私は
知ってるから…
ただ寂しかっただけ」
あれは、優しさなんかじゃなくて
ただ、寂しかった。
1人ぼっちが嫌だったから…
「そうだったとしても、
私はその言葉に救われたの。
それで、一緒に暮らして6年…
やっぱり日和ちゃんは、
初めて出会った時と変わらず
優しい子だった。
自分のことよりも人を
思い遣る、寄り添う気持ちを
持った自慢の家族よ!
誰が何て言ったってね」
律さん…
そんな風に思ってくれてたんだ。
嬉しいやら恥ずかしいやらで
真っ直ぐ見れないよ…
真っ赤になる私に、律さんは
言った。
「だからね…
これから何があっても
自分のせいだなんて思わない事!
私は日和ちゃんと出会って
沢山の優しさを貰ったわ。
幸せな生活を送れてる。
だから、そんな日和ちゃんには
これからも笑っていて欲しい。
本当の親じゃなくても
そう願ってる…
日和ちゃんの笑顔は周りを
明るくしてくれるの。
だから、ずっと笑っててね」
「律さん…
分かった、約束する。
もう、自分を責めない。
パパとママと律さんが
そう願うなら、私は笑って
生きてく。
ありがとう、律さん。
私も律さんと出会えて幸せだよ」
久し振りに心から笑えた気がして
私は心の中の重りが
軽くなった気がした。
それでも、あの夢は毎日
見たけど、私は律さんの言葉を
思い出して泣く事はなくなった。
律さんと日課の水遣り中、
今年も綺麗に咲いた、バーベナ。
高校デビューを控えた私に
律さんが買ってくれたスマホで
バーベナの花を写真に収める。
この間、花には花言葉がある事を
知って、バーベナの花言葉を
調べた私。
【家族愛】と書かれたスマホを
見て、ママが好きだと言った
意味が分かった気がした。
きっとこれは、私達を表す言葉
なんだよね?
パパとママと私はずっと
大好き同士の家族。
晴れた空を見上げて
心の中で伝えた。
ママ…もう1人家族がいるんだよ?
律さんっていう、ママのように
優しくて強い人が。
どんな時も守って支えてくれて
いけない事はいけないって
本気で怒ってくれる人が…
律さんのお陰で、私は
今日も笑って生きてる。
だから、安心してね!
見つめる1人のおばさんが
立っていた。
この人、誰?
じっと見つめていると、突然
おばさんは私に声を荒げた。
「あんたさえ産まれてこなければ
小春は家を出ることも
こうやって死ぬことも
なかったのよ!!
なのに…なんで、あんただけ
生き残ってるのよ!
あんたが死ねばよかったのに!!
この疫病神!!』
まくし立てて喋る、おばさんの
大きな声に私は声を出すことが
出来ないほど震えた。
怒りながら、でも涙を流す
おばさんに私が声を出そうと
した瞬間だった。
目の前には律さんの背中があって
おばさんから守るように
私を背に隠した。
「小春さんのお姉様ですね?
心からお悔やみを申し上げます」
深くお辞儀をした律さんは
顔を上げて、一呼吸して
言葉を続けた。
「ですが、悲しいのは
あなただけではありません。
日和ちゃんも同じです。
大好きなパパとママを1度に
失ったんですから…
だから、この子をこれ以上
傷つけるなら私は許しません!」
はっきりとした口調で言った
律さんの気丈な態度に
フンと鼻を鳴らし、ドカドカと
音を立てて去って行った。
振り返った律さんに
抱きしめられながら、私は
心の中でその後ろ姿に謝った。
「ごめんなさい」と。
その日からだった…
この日の夢を見るようになったのは。
律さんとの生活は、朝に
花の水遣りをすることから
始まり、一緒にご飯を用意して
律さんの楽しいお話を聞き、
学校に行く前に必ず、パパとママの
仏壇に手を合わせて挨拶してから
学校へ行った。
帰宅して、ご飯を食べながら
その日あった事を話して、
お風呂も一緒に入った。
どこにでもある普通の家庭の
ように過ごす日々。
だけど、ベットに入り
眠りにつけば、必ずあの日の
おばさんの夢を見て、
朝起こしに来てくれる律さんに
ギュッとしがみついて泣いていた。
小学校を卒業して、中学校に
上がっても、夢を見てうなされ
律さんにしがみついていた私。
色んなことが理解出来るように
なっていた私の心は、
パパとママを亡くしたのは、
あの日の私のわがままのせいで
私が殺したも同然だと思うように
なっていた。
あの日のおばさんの言うことは
間違ってはいない…
責められて当然だと思った。
中学3年生に上がった頃、
私は律さんに心の内を話した。
「律さん…パパとママが
死んだのは私がわがままを
言ったからなの。
あの時、わがままを言わなければ
事故に遭う事も死ぬ事も
なかった…
だから、私が殺したも同然」
話す間、じっと聞いてくれていた
律さんは、話し終えると同時に
口を開いた。
「日和ちゃんがそう思って
しまう気持ち…
分からなくもないわ。
でもね、逆の立場だったら
日和ちゃんはパパとママを
責めるかしら?」
え…?
逆の立場?
もし逆の立場なら…
パパとママのせいじゃないよって
ただ事故に巻き込まれただけで
パパとママが悪いんじゃないって
言う。
「逆の立場なら、私は…
2人のせいじゃないよって言う。
だから、泣かないで。
責めないでって言う。
私の分も生きて笑ってって」
日和ちゃん、と言って
下を向く私の手を握った。
顔を上げると、優しく微笑む
律さんの笑顔がそこにあった。
「そう。
優しい日和ちゃんだから、
大好きな人を責めたり
恨んだりしない。
一緒に暮らしてまだ数年の
私でさえ、そう思うもの。
笑っていて欲しいって思うでしょ?
パパとママもきっと同じ気持ちよ?
大好きな日和ちゃんには
笑って生きて欲しいって
思ってるはず。
親ってそういうものよ」
そうなの?パパ…ママ…
「私が初めて日和ちゃんと
出会った時、日和ちゃんは
悲しみでいっぱいなはずなのに
私の傍にいる…1人じゃないから
大丈夫って言ってくれたの。
その時思ったの…
優しい子だなって。
それはきっとパパとママが
そういう風に日和ちゃんを
優しい子に育ててきたんだなって」
「優しくなんて…
ただ、あの時の律さん…
笑ってるのに悲しそうな顔してた
から。
1人ぼっちが寂しい事、私は
知ってるから…
ただ寂しかっただけ」
あれは、優しさなんかじゃなくて
ただ、寂しかった。
1人ぼっちが嫌だったから…
「そうだったとしても、
私はその言葉に救われたの。
それで、一緒に暮らして6年…
やっぱり日和ちゃんは、
初めて出会った時と変わらず
優しい子だった。
自分のことよりも人を
思い遣る、寄り添う気持ちを
持った自慢の家族よ!
誰が何て言ったってね」
律さん…
そんな風に思ってくれてたんだ。
嬉しいやら恥ずかしいやらで
真っ直ぐ見れないよ…
真っ赤になる私に、律さんは
言った。
「だからね…
これから何があっても
自分のせいだなんて思わない事!
私は日和ちゃんと出会って
沢山の優しさを貰ったわ。
幸せな生活を送れてる。
だから、そんな日和ちゃんには
これからも笑っていて欲しい。
本当の親じゃなくても
そう願ってる…
日和ちゃんの笑顔は周りを
明るくしてくれるの。
だから、ずっと笑っててね」
「律さん…
分かった、約束する。
もう、自分を責めない。
パパとママと律さんが
そう願うなら、私は笑って
生きてく。
ありがとう、律さん。
私も律さんと出会えて幸せだよ」
久し振りに心から笑えた気がして
私は心の中の重りが
軽くなった気がした。
それでも、あの夢は毎日
見たけど、私は律さんの言葉を
思い出して泣く事はなくなった。
律さんと日課の水遣り中、
今年も綺麗に咲いた、バーベナ。
高校デビューを控えた私に
律さんが買ってくれたスマホで
バーベナの花を写真に収める。
この間、花には花言葉がある事を
知って、バーベナの花言葉を
調べた私。
【家族愛】と書かれたスマホを
見て、ママが好きだと言った
意味が分かった気がした。
きっとこれは、私達を表す言葉
なんだよね?
パパとママと私はずっと
大好き同士の家族。
晴れた空を見上げて
心の中で伝えた。
ママ…もう1人家族がいるんだよ?
律さんっていう、ママのように
優しくて強い人が。
どんな時も守って支えてくれて
いけない事はいけないって
本気で怒ってくれる人が…
律さんのお陰で、私は
今日も笑って生きてる。
だから、安心してね!