愛想笑いの課長は甘い俺様
*5*
残業しながら悶々と考えているのは昼間の給湯室でのこと。
突然の課長からのキスはあまりにも甘美で濃厚で、そして理性も吹き飛ぶくらい妖艶なキスだった。
あんなキスは初めてだ。
優しく甘やかすようでいて、それでいて攻撃的で噛みつくような。
今も思い出すだけで心臓がドキドキと早鐘を打つ。
課長は一体私をどう思っているのだろう。
冷たい態度で突き放すように仕事させるくせに、すごく心配したり。
自分の気持ちも分からないのに、課長の気持ちなんてなおさら分かるわけがない。
あの“俺様”が何を考えているかなんて。
「ふぅ〜…」
7時過ぎに仕事がひと段落したけれど、課長は外出していて帰ってこない。
『今日の夜は空けとけよ』
そう言われたものの、どうしたらいいんだか。
…帰ってもいいのかな?
でも、待ってろなんて言われてないし。
いや、素直に待ってる私もどうかしてる。
よし、帰ろう!
そう思って立ち上がると机の上に置いていた携帯が鳴った。
着信を見ると課長からだ。
「はい、坂井です」
『あぁ、もう帰ったのか?』
「いえ、今から帰るところです」
『そうか、じゃあまっすぐ家に帰れよ』
「は? はい…そうします…」
なにそれ。
待ってませんよ。待ってませんけど、空けとけって言うから残業してたのに。
いや、待ってませんから!
アパートに着いたのは8時過ぎ。
久しぶりの仕事に今日一日の出来事と病み上がりとで、疲労感は半端ない。
けれど、課長とのことを考えるとなぜか胸の奥がキュウっとなって、その度に心臓が波打つ。
だめだめ!
課長はきっとからかってるだけだ。
私の反応を見て仕返しする気なんだわ。
その証拠にすっぽかされたし。
って、待ってないから!
ピンポーン!ピンポンピンポーン!
何度も押されるチャイムの音。
何度も…もしかして……
パタパタと急いでドアを開けると課長が立っていた。
「待たせたな」
目の奥が笑っている。
「え? どうして…ですか?」
「上がるぞ」
そう言って躊躇なく部屋に入ってくる。
「あ、あの!」
部屋に入るなり、ベッド前に置いてあるテーブルにドサっと袋を乗せた課長。
「飯食ってないだろ?これ、超美味いってクチコミにあった特製弁当。食べるだろ?」
「へ?……え?」
なに?
美味しいお弁当があるから今夜空けとけって言ったの?
わざわざ私の部屋に来て?
課長がさっぱり分からない。
私を苛めたいのか優しいのか…どうしたいの?