愛想笑いの課長は甘い俺様
*2*
頬を手のひらで冷やしながら御手洗いを出ると、課長が廊下の壁にもたれて立っていた。
ただ立っているだけなのに、絵になるその姿に思わずドキッとしてしまった。
「帰るぞ」
「はい?!」
課長は私の腕を取ってぐいぐいと店を出て行く。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと!課長!?」
腕を引っ張られて外に出ると、通りで止めたタクシーに無理やり押し込まれた。
「か、課長!?何するんですか!まだ飲み会終わってないし、私大丈夫ですから!」
「うるさい。言うこと聞け」
うわ、でた、俺様!
「おい、住所、運転手さんに言って」
「え?」
「早く」
今度はおい呼ばわり…。
キッと睨み返そうとしたけれど、睫毛の長い切れ長の綺麗な目に威圧されて、反抗心がシュルシュルとしぼんでしまった。
私ソッコーで怖じ気づいてるし。
「ちょっと強引すぎじゃないですか?」
「このくらいじゃないと社畜は帰らないだろ」
「坂井です!」
いつまで社畜呼ばわりしてくれてんのよ。
いくら上司だからって限度ってもんがあるでしょ。
「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」
ムカつく!
いつまでもビクビクしてたって埒があかない。
私も悪かったけど、この人だって散々私をイジメてくれたんだ、そろそろ終わりにしたっていいでしょ。
「私、降ります。降ろしてください」
「ふざけんな、ワンメーターも乗ってないんだぞ。運転手さんに失礼だろ」
失礼はどっちだ!
「だからって、課長に送ってもらう筋合いありません」
「はぁ? 筋合いだ? 仮にも病人を送ってやろうって人に対して言う言葉か?」
「勝手に病人なんて決めつけないでください! 課長に私の何が分かるんですか!」
「お前のことずっと見てたから分かるんだよ!」
「………は?」
はい?
「ーーっ」
課長は口に手を当て、しまった! と言わんばかりの顔つきをしている。
なんですか? 今の発言。
聞き間違い?
「とにかく降りたら仕事量さらに倍にしてやるからな」
「うわっパワハラ!」
暗くてよく見えないけど課長の顔が赤くなってるのは…気のせい?
覗き込もうとするとあからさまに顔を背けられた。
あれ?
ムカつくには変わりないけど、課長の照れている顔を見てなぜか私も降りる勢いをなくしてしまった。
チラッと横目で盗み見ると綺麗な顔をブスッとさせたまま外を眺めている。
耳まで真っ赤にしながら…。