愛想笑いの課長は甘い俺様
そう思って立ち上がったと同時に突然玄関のチャイムが鳴り響いた。
ピンポンピンポーン!
時計を見ると10時前。
ピンポーン!
誰、こんな時間に!?
なんとなく怖くて玄関の覗き窓からそっと外を確認すると、堤課長が立っていた。
「課長!?」
ドアを開けると突然、バサっとナイロン袋を突き出された。
「薬とイオン水とゼリー。他に食いたいもんあんのか?」
「え?あ、いえ……っていうか、なんで私の部屋!」
「こんなセキュリティの甘いアパートなんて、表札見ればすぐ分かるだろ」
「そうですけど、いきなり来るなんて非常識です!」
「あぁ、そりゃ悪かった。とにかくこれ飲んどけ。他のヤツにウツされたら仕事になんねーからな。あと酒入ってるから薬は明日の朝。そんだけ、じゃあな」
ぶっきらぼうに言うだけ言って踵を返していった。
「あ、課長!」
咄嗟に課長を呼び止めてしまった。
階段を降りようとしていた課長はポケットに手を突っ込んだままゆっくり振り返った。
「あ?」
「あ…え…と」
条件反射に呼び止めたけど、なにを言うんだっけ?
「あ…りがとうございました」
課長は一瞬キョトンとしたものの、整った唇の端を少しだけ緩めると流し目で手をヒラヒラさせて行ってしまった。
「…………」
はっ!
ヤバイ、不覚にも見惚れてしまった!
ないないない!
部屋に戻って課長から渡されたずっしりした袋を開けると、マスクやバナナにパンと冷え◯タも入っていた。
「こんなにいっぱい…」
帰ったものだとばかり思ってたのに、わざわざ買って持ってきてくれたんだ。
『他のヤツにウツされたら仕事になんねーからな』
だよね!
私の心配じゃなくて、感染させたら厄介だからだよね。
分かってる、分かってる。
なんとも思ってない部下だからだよね…。