Perverse
見つめ合うと後悔が押し寄せてきて涙が出そうになる。



『好き』という言葉はたった二文字のくせに、どうしてこんなに口にするのは難しいんだろう。



零れ落ちそうになるのに。



伝えたいのに。



どうして噤まなければならないんだろう。



こうして視線が絡むと伝わればいいのに。



そう思って柴垣くんを見つめていると、彼は眉間にシワを寄せて目を伏せて小さく溜め息をついた。



「……やめろよ」



柴垣くんはゆっくりと小さく呟いた。



「え?」



うまく聞き取れなくて耳を寄せると、



「ちょっ…」



と柴垣くんは身を引いて私と顔の距離を限界まで作った。



「近ぇよ。マジで勘弁して…」



それは突然の完全なる拒絶の言葉。



柴垣くんの口から出たのは、私の心を一気に凍らせる呪文だった。



「…ごめん…」



震える声を絞り出すと、閉ざした私の心の代わりに最寄りの駅への扉が開く。



「行くぞ」



柴垣くんは私の腕を取って人ごみを掻き分けて電車を降り、ホームを歩きだした。



人が多いとはいえ、柴垣くんに腕を取られて歩く。



ついさっきまでなら舞い上がるほどのシュチュエーションだけれど、今は柴垣くんの触れている場所が痛くて堪らない。



誰か…助けて…。
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