Perverse
津田さんは、ぽかんと口を開けたまま固まった。



柴垣くんの言葉を脳内反芻したのだろうか。



突然プッと吹き出して笑いだした。



私の張り詰めていたものが、津田さんの笑いで一気に消え去る。



「わかったよ柴垣。遅くなったから、三崎さんをちゃんと送ってあげて」



「ご存知のとおり、隣同士なんで心配無用ですよ」



ぶっきらぼうにそう言う柴垣くんは、私と目が合うと顔を顰めて逸してしまった。



それが照れ隠しに見えたのは、私の思い違いであって欲しくないと強く願わずにはいられない。



「さすが柴垣だ。柴垣の見極めがなかったら、たった5人で交渉は終わらなかったよ。だから今日の所は引いとく」



「何言ってんすか」



柴垣くんは私達の視線から逃れるように自分のデスクを片付け始めた。



「ほら三崎さんも帰る準備して。俺ももう少ししたら帰るから」



「はい。ありがとうございます。津田さん、今日の事は…」



「誰にも言わないから大丈夫だよ」



「すみません」



最後にもう一度頭を下げると、私も片付ける。



「じゃ、お疲れ様でした」



「本当にありがとうございました。お疲れ様でした」



私と柴垣くんは手を振る津田さんを残し、フロアを出た。
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