Perverse
マンション入口で立ち止まったまま動かない柴垣くんに、電話をしていることが申し訳なくて。



電話越しの少しの沈黙にさえも気持ちが焦る。



『今日ね、楠原さん達と名前の話になってね』



「はぁ…」



『三崎さん、俺の名前知ってる?』



「それはもちろんです」



『言ってみて?』



本当に突然どうしたというんだろう。



「まさたか…さん?」



下の名前を呼ぶことに抵抗が無かった訳ではないけれど、もう少し柴垣くんとの時間が欲しかったから。



私はするりと口にした。



『当たりだ。楠原さんは知ってたけど水田さんは知らなかったんだよね。最後に一つ。三崎さんはチョコレート好き?嫌い?』



「好きです」



津田さんの2つの質問に答え終わったところで、柴垣くんはゆっくりと私を振り向いた。



何か言おうと口を開いたけれど、ぐっと噤んで片手を上げると自分のマンションへと帰っていく。



「あっ」



引き留めようと漏らした声に津田さんが反応する。



『あ、三崎さん。明日は覚悟して会社に来てね』



津田さんにそう言われると、電話を切りたくても切れなくなってしまった。
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