Perverse
「最初の夜にだって俺はちゃんと言ったぞ。お前の事貰うって」



「……」



どう返答したらいいんだ。



あの時は…なんというか…もう夢中で。



緊張と嬉しさと切なさで頭がいっぱいで、うまく記憶に残せていないのだ。



「でも…あの時の柴垣くん、怒ってたし」



「目の前で持ち帰られる寸前だったんだぞ。そりゃ怒りもするだろ普通」



そういえば、あの時ばかりは話も通じなくて、さすがに身の危険を感じたんだった。



確かにそれを助けてくれたのは柴垣くんだったけれど。



「なんだか怒りに任せて感や、他の誰かに対する優越感の方が勝ってる気がしたんだもの」



『みんなの三崎』を『柴垣』が『抱いた』ら『会社のみんなはどう思うのか』ばかりが先行していたような。



そんな不安な思いに駆られて、目の前の柴垣くんの熱だけにしがみついていた。



「あの言葉は…」



柴垣くんはバツが悪そうに視線を逸らすと、繋いでいる手をじっと見つめた。



「ごめん…。俺、ずっと津田さんが怖くてさ。あれだけのいい男だし、お前なんてすぐ持ってかれると思ってたから。さっきまで」



「柴垣くん…」



さっきまでって。



津田トラップのことを言っているんだろう。



親指で私の手の甲を撫でる感触に酔いそうになって…。



「あ、思い出した」



私は肝心な事を思い出して甘さを断ち切った。
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