Perverse
彼と別れて心が欠けたとしても、寸分違わず日は昇る。



虚しさに涙した後、腫れぼったくなるだろうとアイシングして眠ったけれど、やはり瞼は僅かに腫れていた。



28にもなると、皮膚の回復力も衰えてくるらしい。



隠すように明るめのメイクを施せば幾分はマシな気がした。



いつもよりも高めのヒールを履いてカツカツと音を響かせると、丸まっていた背中が伸びてすっかり日常が戻ってきた。



一等地に自社ビルを構え、大まかに分けて企画、営業、物流と、すべての部門を兼ね備えた社内はお洒落に纏め上げられていて、取引先からもさすが一流企業と言われている。



エレベーターで上りフロアに出てすぐの部署、営業2課が私の所属先だ。



「おはようございます」



にっこりと完璧な微笑みを纏ってデスクに鞄を下ろすと、



「三崎さん、おはよう」



「三崎さん、おはようございます」



たくさんの挨拶が返ってきた。



すぐに周りに人が集まり、私の持て囃しが始まる。



それを避けるかのように『コーヒー持ってこよっと』と給湯室に駆け込むと先客がいた。



「あ、結菜さん、おはようございまぁす」



「おはよう結菜」



「おはよう沙耶ちゃん、楓」



同課の水田沙耶ちゃんは、とても私に懐いてくれている可愛い後輩。



そして楠原楓は私と同期のサバサバしたハンサムな女性。



私と正反対の、最も私が憧れる女性だ。



「結菜が来ると社内の雰囲気が変わるわね。男共が浮き足立ってる」



「ホントですよね。でも私も結菜さんが素敵すぎてテンション上がっちゃいます」



そう言って私の腕に絡み付いてくる沙耶ちゃんの方が素敵だと思う。
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