私の遠回り~会えなかった時間~
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「え~、加代さん辞めちゃうの?」

私は大きな鏡を前に、思わず叫んでしまった。

「うん、私は引退しようと思って。」

私が加代さんと呼んでいるその女性は鏡の中の私に向かって微笑む。

「じゃあ、私はこれから誰に髪を切ってもらったらいいの?」

私は思わず振り返ろうとしたが、加代さんは慣れたように私の頭を両手で掴み、それを阻止した。

そして私の視線を鏡に戻す。

加代さんこと南野加代さんは私の母の親友。

まだ60歳になるには、数年残しているはず。

私は幼い時に母に連れられて加代さんが営んでいる近所のこの美容院に通い始めた。

今は当然一人で通っているけれど、そんな頃からのお付き合いだ。

「知紗(ちさ)ちゃんの黒髪を手入れできなくなるのは残念だけれどね。」

加代さんは少し寂しそうに目を伏せた。
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