私の遠回り~会えなかった時間~
「大沢さんだったわよね。ただ座ってくれていたらいいから。でもメイクが終わったら素敵な笑顔を見せてね。それがあなたの仕事よ。」

山本さんも私の背中に手を置いてくれた。

「久保に任せてくれたら大丈夫。腕は確かだから。」

何だかわからないうちに私は久保さんの後ろについて、会場に入って行った。

私は舞台の椅子に座らされる。

久保さんが化粧品の説明をしている。

私はぐるっと会場を見渡した。

何て大きなホール…、そしてこのたくさんの人…。

私は少し目を伏せる。

緊張がピークに達した時、久保さんの声が途切れた。

そして私に近づいてくる。

「もう少し頬を緩めてくれるかな。今から私があなたをきれいにしてあげるから。私の手を感じてね。」

私の耳元でこう囁いた久保さんの手が動き出した。

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