私の遠回り~会えなかった時間~
だから彬さんの左利きにも覚えがあって…。

「その後で彬に知紗ちゃんの髪は切るなって念を押されたの。俺が美容師として腕を磨いて、いつか知紗ちゃんを一番きれいにしてやるからって。その時に彬の将来が決まったのよ。」

私のためってこの事…?

「その後の彬は美容専門学校を出て、修行であちこちしたの。ついには海外まで行っちゃうなんて思ってもみなかったけど。」

加代さんは私を見て微笑んだ。

「全部知紗ちゃんのためだったのよ。私は彬の言葉に従って、一生懸命知紗ちゃんの髪の手入れをしていたわけ。」

「知紗に今度会う時は、美容師として自分の納得する実力がつけてからだとずっと思っていた。」

優しい笑みをたたえた彬さんが私を見つめる。

「…そういう訳だから、知紗ちゃん、いつ彬と結婚してくれる?」

加代さんは彬さんと私を交互に見つめる。

「あら~、知紗にはまだ彬さんとの結婚は無理よ。私は母親としてまだ何にも教えていないもの。きっと彬さんに迷惑をかけるわ。」

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