私の遠回り~会えなかった時間~

すると彬さんはぎょっとしたように、手に力を入れた。

「今更帰るつもりか?」

車が駐車場に止まった。

彬さんは慌てて降りると、私の乗っている助手席に回った。

助手席のドアを開けて、私に向かって身体を乗り出して来た彬さん。

「もう逃したくない。」

私の耳元でそう囁くと、私にキスをした。

そして私の腕を引っ張って、車の外へ出した。

「知紗、ここで決めろ。中に入ったら俺は止まれない。知紗がまだ無理なら、ここから家に帰れ。俺は知紗の気持ちを尊重する。」

さっきから彬さんの気持ちも揺れ動いている事が伝わってくる。

自分でも言っている事が一貫性のない事に気が付いているのかな。

私は真面目なその表情のめがねの奥の彬さんの目を覗く。

私はコクコクとうなずく事しか出来ない。

< 122 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop