私の遠回り~会えなかった時間~
「そんなに近かったら言えないです。」

恥ずかしくて、もう一度私は彬の胸に顔をうずめようとした。

「知紗。」

その柔らかな優しい声に肩がびくんと反応する。

「…お願いだ。俺にちゃんと聞こえるように言ってくれ。」

私は恐る恐る顔を上げた。

そこには何とも不安気な彬の表情。

私は彬の頬に手を伸ばした。

「彬と一緒に居たいから…、帰りたくない。」

私の触れている彬の顔の筋肉が動いた。

そして私の手を彬が掴む。

「とにかく部屋に入ろう。」

彬が私の肩を抱き、美容院の中に促す。

「無理するなよ。」

< 124 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop