私の遠回り~会えなかった時間~
「あら、一度帰って来たのね。」
呑気なお母さんの声が私を出迎えた。
「ただいま。」
私は何となくお母さんと目が合わせづらくて、そばをすり抜けようとした。
「知紗。」
いつもよりずっと優しい温かな私の名を呼ぶお母さんの声。
「今日の知紗はすごくきれいよ。」
「そう。」
私は素っ気なく返事をすると、自分の部屋に駆け込んだ。
何でも分かっているというようなお母さんの言葉。
ドキドキしながらも、ちょっとホッとした。
「もうこんな時間!」
私は慌ててシャワーを浴びて、身支度を終えると、コーヒーだけを飲んで家を出る。