私の遠回り~会えなかった時間~
いつもと違う自分の姿に圧倒されているのだ。

彬はメイクとヘアスタイルを整えると、決してその姿を私に見せなかった。

そしてそのままスタジオへ送り出したのだ。

「頑張ってこい。」

そう言って微笑んだ。

その後の事は、あまり記憶に残っていない。

ただ久保さんとカメラマンの指示に従っていただけだったような気がする。

初めのうち、久保さんは渋い顔をしていた。

私のスタイルと表情がうまく合わなかったようだ。

そんな違和感は私にもしっかり伝わっていた。

どうして良いのか分からなくて、少しパニックになりかけた時、カメラマンの後ろに、小さく彬が見えた。

腕を組んでいた彬は、一瞬驚いたような表情を見せた。

そして大丈夫だというように、ニッコリと笑った。

そして声を出さずに、口が動いた。
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