私の遠回り~会えなかった時間~
思いがけないお母さんの言葉に一瞬私の動きが止まる。

「やっぱり帰って来にくいかな。」

お母さんは心配そうに言う。

そうだ、加代さんの後ろには当然彬が居る。

顔を合わせる事は避けられないだろう。

「…ちょっと考えさせて。」

彬を忘れるどころか、心の片隅にまだ彬が住みついている。

その存在は小さくなるどころか…。

だから私はレッスンと仕事に明け暮れる生活をしないと、気持ちが持たない。

否定したくても、否定できないこの気持ち…。

「加代さんは入院しているから大丈夫。病院に行ったら良いのよ。」

「そんなに悪いの?今までそんな事教えてくれなかったじゃない。」

「彬さんに口止めされててね。知紗にいらない心配をさせたくないって、加代さんも言っていたしね。」

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