私の遠回り~会えなかった時間~
私は話をそらすために、笑ってみる。

「一番ときめいてほしい人には通じないんだけどな。でも向こうの女性には結構声を掛けられるんだぜ。」

本気か冗談か分からないようなテンションで木本さんは笑う。

「すいません、私少し眠ります。」

私はそれ以上は耐えられなくなって、完全に逃げた。

「ああ、少し休んだ方が良い。…出来れば何も考えずにな。」

私の心を見透かすような言葉を掛ける木本さん。

「ありがとうございます。」

「さっきから礼ばっかり言われているな。」

木本さんはもう一度私に目を合わせた後、自分も目をつぶった。

赤い三角屋根に茶色のレンガ調の外壁。

私はタクシーを降りて、あの美容院の前に立つ。

大きな深呼吸をすると、もう一度美容院を見上げる。

「入ろうか。」

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