私の遠回り~会えなかった時間~
木本さんの表情も緊張しているのがはっきり伝わる。

そこで扉が開いた。

「…知紗?」

何の前触れもなく、忘れたくても忘れられない人が目の前に現れた。

「お久しぶりです。加代さんのお葬式にも来られなくて…、私…。」

喉がカラカラで、自分で何を言っているのか分からない。

当然彬の目を見る事も出来ない。

「分かっているつもりだよ、でも…。」

彬の声は優しい。

声にならない感情が私に沸き起こるが、何とか抑え込んだ。

「もしかしたら全部の予定をキャンセルして、来てくれるんじゃないかって、心のどこかで期待していた。」

彬の声はとても穏やかだったが、それでも責められているように感じるのは、私が過敏になっているからだろうか。

「彬さん、お客様?」

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