私の遠回り~会えなかった時間~
彬の後ろから声を掛けてきたのは、山本さん。

私は現実に戻されたような気がした。

「あれ?山本さんがどうしてこんな所に居るんですか?」

私の後ろから木本さんが叫んだ。

一瞬私と彬の間の空気が変わったように感じた。

「初めはスタイリストのお手伝いを会社でしていたの。でも私が企画室の仕事に行き詰ってしまってね。今はここで雇ってもらっているの。」

山本さんは彬に同意を求めたが、彬は少しも表情を変えなかった。

「とにかく中に入って。」

私はあの懐かしい美容院の中に入る。

私が片づけたキッチンもそのままだった。

懐かしさがこみ上げるが、今の私には、ここでの思い出が辛すぎる。

私は口元に力を入れる。

私は促されるまま、仏壇の前で手を合わせる。

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