私の遠回り~会えなかった時間~
「加代さん、遅くなってごめんなさい。…心配ばかりかけてごめんなさい。」

私の口から出るのは、謝る言葉ばかりだ。

「…わざわざ遠い所からありがとう。叔母さんも知紗の事が大好きだったからな。」

彬の泣きそうな表情が胸に突き刺さる。

「体調が悪かったことも全然知らなくて。後であなたが口止めしていたってお母さんに聞いたわ。」

面と向かって彬と呼ぶことが出来なかった。

「うん、知紗が向こうに行ってすぐに初期の子宮がんが見つかってさ。ずっと通院だけで美容院も手伝ってくれていたんだ。」

ポツリポツリと彬が話す。

「半年ほど前だったかな、急に容態が悪くなって、入院したんだ。」

私が加代さんに会ったあの頃だ。

「でもその後も治療らしい治療は受けなかった。叔父さんの元に行くんだから何も怖い事はないって。人間らしい最期だった。」

加代さんらしい。

私は亡くした存在の大きさを更に感じる。

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