私の遠回り~会えなかった時間~
私に触れている彬の頬が揺れて、くすぐったい。

彬はニヤッと笑うと、私の頬にキスをした。

「俺のトラウマも取り除いてくれよ。」

そう言うと、彬はスッと仕事の表情になった。

撮影時に、彬がスタイリストとして立ち会えたのは言うまでもない。

珍しく少し及び腰でスタジオに入った彬に私は声を出さずに口を動かした。

-自信を持って、私を信じて。-

控室に戻ると、そこには久保さんと木本さんの姿があった。

「良い表情だったわ。すっかり着物も似合う年齢になっちゃったわね。」

久保さんがそのままの私の姿を見て微笑む。

「もうこれで俺達の仕事も一段落だな。」

ちょっとホッとした様な、寂しいような木本さんの表情。

この後、二人も日本に戻る。

久保さんは会社の専属スタイリストとして、バリバリ働く。

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