私の遠回り~会えなかった時間~
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「ただいま。」

私は美容院に入ると、思わず声が出た。

「お帰り。」

数日前に帰った彬がにこやかに迎える。

「あら、お帰り。」

髪を切ってもらっているのは、お母さんだった。

「さあ、これから忙しくなるわね。結婚式はいつ頃を予定しているの?」

彬が何とも苦い顔をしている。

「もうここまで来たら、そんなに急がなくてもいいし…。」

そう言った私に反応したのはお母さんではなく彬の方だった。

「今までで一番きれいな知紗を俺が作り上げて、みんなに見せびらかす。」

私が大人になった分、彬が子供っぽくなったような気がする。

「お母さん、今日は知紗をお借りしますので。」

そんな彬も今は限りなく愛おしい。

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