私の遠回り~会えなかった時間~
「俺が知紗をきれいにしてやる。」

私の耳元で囁く彬さん。

「彬さ…ん?」

私の心臓はドキドキを通り越して、キュッと掴まれてしまったような痛さを感じる。

「知紗、俺と付き合わない?」

彬さんの腕の強さに私は身動きが出来ない。

「まあ、返事は少し待ってやる。その代りOKしか受け付けない。」

私はチラリと鏡を見る。

そして鏡に映る男と女の姿に呆然とする。

真っ赤な顔の私はまさしく恥じらう乙女の顔をしている。

その横に何ともいえない男の色香を湛える彬さんの表情は…。

決して私をからかっているようには見えなかった。

彬さんは何か愛おしいものに向ける優しい目をしていた。

「少しだけこのままで居させて。」
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