私の遠回り~会えなかった時間~
5
私は慌ててもう一度美容院に入った。

走って来たから、息が切れて苦しい。

社会人になってからの運動不足を痛烈に感じる瞬間だ。

「どうした?知紗。」

私の様子を見て、少し驚きながら彬さんが声を掛けてきた。

「はぁ…、彬さんが…、すぐって言うから…、走って…来たんです。」

私は下を向きながら、切れ切れにしか言葉が出せない。

「知紗。」

私の前に立った彬さんが私の名前を呼んだ。

私はそっと顔を上げる。

「ありがとう。そんなに急いで来てくれたんだ。」

私に向けられた彬さんのその温かい笑顔に私はキュンとする。

その瞬間、私は彬さんに抱きしめられていた。

「あの…。」
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