私の遠回り~会えなかった時間~

ちょっと生意気だったかな。

「じゃあ、キッチンに行きますね。」

私は恥ずかしさで、そのままキッチンへ向かった。

「知紗も素直に全部さらけ出せよ。…あの時みたいに…。」

彬さんの声が聞こえたが、私は振り返らなかった。

キッチンに入り、少し自分の胸に手を当てて、落ち着くまで待った。

その間に彬さんが二階へ上がって行く足音がした。

ああ、どうしてこうなっちゃったんだろう。

彬さんの思い通りに、つい流されてしまっている自分に気が付く。

思わずうなずいてしまったけれど、こんなに簡単に彬さんと付き合う事を承諾してしまって良いんだろうか。

でも彬さんの様子では、決して私をからかっているようには感じられない。

私にはまだ彬さんがどんな人なのか全く分かっていないのに。

彬さんは私を以前から知っているようだけど、私の方に記憶がないという事はどういう事なんだろうか。
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