私の遠回り~会えなかった時間~
「悪い。そんな事情も知らなくて。俺は仕事中スマホを手放さないから、知紗の状況も分からなくて。」
「私もすぐに返信すれば良かったんですけど…。」
私は彬さんの言葉に何だかものすごく申し訳ないような気がした。
「既読になっているのに、返信が来ないからちょっと不安になってしまった。俺の思い込みだ。すまない。」
ぶっきらぼうな言い方だけれど、彬さんの思いは伝わってくる。
「おまけに夕食を作っておくと言っておきながら、知紗の好きな食べ物すら知らないから、何を作って良いのか分からないし…。」
段々声が小さくなっていく彬さん。
「何でも良いですって言いたいところですけど、それでは困りますよね。彬さんの得意な味付けのパスタをお願いします。」
無難な注文をする私。
本当は好き嫌いなんて無いけれど。
スマホの向こうで彬さんが笑ったような気がした。
「了解。任せておけ。じゃあ、午後も仕事頑張れよ。」