私の遠回り~会えなかった時間~
このままだと怒ったままの彬さんは腕を組んだまま私には何も言いだしそうになかったから。

でも何かぶつぶつ言っているのは分かる。

そんな彬さんに私の声は届いていないようだった。

「彬さん!」

私のありったけの大きな呼びかけに、ハッとしたように彬さんは私を見た。

「知紗、もしもそいつが俺と付き合う前にそういう誘いをしていたら、お前は一緒に出掛けていたのか?」

えっ…?

「それはありません。だって木本さんに誘われた時、私は戸惑って返事がすぐに出来なかったんですから。」

私は彬さんを見つめる。

彬さんの腕はまだ解かれないまま。

でも彬さんは明らかに私の様子を伺っている。

「…そうか…。」

彬さんは口を一瞬きゅっと結んだ。
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