ねぇ先輩、名前をよんで。



手をぎゅっと握りしめて、

泣くなって自分に言い聞かせる。


鼻がツンとしても、

視界が歪んでも、


私は絶対に先輩の前では泣いちゃダメだと言い聞かせた。


それから水族館を一周回ったけれど、

全部上の空で、全然先輩の話も耳に入らなかった。


ただ悲しくて、真っ暗な道を進んでいるような


そんな気持ち。


楽しかった時間はがらりと色を変えてしまった。


そして1週周って入口に戻って来た時。

私は先輩に言った。


「すみません、ちょっと具合が悪くなっちゃって……

今日はもう帰ってもいいですか?」


嘘をついた。

苦しくて、この場にいることが出来なかったから。


「えっ、大丈夫?

ごめんね、気づかなくて無理させて……」



「いえ……大丈夫です」




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