ねぇ先輩、名前をよんで。







「……私、ゆうって名前じゃないんです」




私と先輩の間を強い風が吹き抜ける。


先輩は声も出さず、

驚いた表情で私を見ていた。


「本当は悠って書いてはるかって読むんです」



名前を呼ばれるたびに苦しくなった。


心をぎゅっ、と掴まれて切なくなって、


本当の私の名前を

呼んで欲しいと思ってしまった。


"ゆう"じゃない。
"はるか"って呼んで。



込み上げる想いを押さえつけた分、

自分が傷ついた。


だけどそれももう、全部……今日で終わりだ。


私をしばり続けて来たしがらみから解放されるんだ。



「騙していてすみませんでした」



ふわりと風が吹く。








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