ねぇ先輩、名前をよんで。
一歩踏み出すだけで変わる世界があることを
先輩は気づかせてくれた。
それからは屋上には一度も行っていない。
先輩は言ったから。
“逃げたくなったらおいで”
と。
私はもう大丈夫だから。
また先輩と会う時は、
今度は逃げて来た時じゃなくて、
胸を張って前を向いている時にしよう。
そしてありがとうとしっかり伝えるんだ。
そう心に誓って、
私は新しい学校生活を過ごした。
時折、窓から先輩を見かけることがあったけど、
私は声をかけなかった。
『春、お待たせ。帰ろうか』
立花春先輩……。
その隣で笑うのは髪が長くて、
とても大人っぽい女の人だった。
いつも先輩の隣で笑っていた人。
きっと先輩の言っていた強い女の人のことだろう。